晴れた冬の日に


よく晴れた冬の昼間は、意外なほど太陽が眩しい
ものである。ロクに熱さを持っていない代わりに、
そのエネルギーを煌めきにつぎ込んだかのように
光が目に突き刺さってくる。
その冬の日も、そうだった。


禁煙が声高に叫ばれる昨今、世間の例に漏れず
私が普段使用する喫煙所も外へとおいやられて
しまっている。それが逆に喫煙者に意地を張らせて
いるんじゃないか、そんなことを思いながら
いつも通り寒さに首をすくめながら喫煙所に
立った私は、一瞬、奇妙な違和感に包まれた。
小首を傾げかけて、すぐにその原因に思い当たった。


ああ、静かなんだ。


昼の休憩時、外にはそれなりの数の人間が行き交っている。
しかし彼らが交わしている筈の会話も、微かな
さざめきとなって、大海原の水面に立つ僅かな小波
程度の彩りを呈しているにすぎない。
  空間を支配するのは、絶対的な静寂。
朝の空気のようだと思い煙を吸い込んだ私の肺を、
しかし、冬の朝独特の清冽な空気が刺すことはない。
外を歩く人々は、天気が良いこともあって、しかめっ面で
うつむいているわけではなく、むしろ朗らかな表情を
している。
そんな彼ら彼女らの姿を、真昼の太陽が照らし出す。
しんとした空気は揺るぐことなく、ただきらきらとした
輝きだけが降り注ぐ。


きっと。
きっと世界の終わりとは、こんな日にやって来るのに
違いない。
そう思った。